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2011年02月 アーカイブ

生母との別れ

室生犀星(昭和37年没、72歳)は明治22年、元加賀藩に仕えた老武士と、その家に奉公するお手伝いの女性との間に生まれたいわゆる私生児です。


生まれてまもなく、近くの雨宝院にもらわれて行き、血のつながらない兄と姉、妹にまじって淋しい思いをしました。


そこへ実父の死がもたらされ、さらには理不尽にも生母との生き別れを体験します。


先の引用は、その時のことを述べた小説の一節です。


したがって、犀星の母に対する思いには、生涯きわめて屈折した複雑なものがあったと思われます。


いかなる事情がそこにはあったにせよ、二度までも、みずからの母によって捨てられたのです。


「夏の日の匹婦の腹に生まれけり」(昭和18年『犀星発句集』所収)という、この晩年に詠まれた句は、その間の口にしがたい胸のつかえを赤裸々に語ってはいないでしょうか。


いっそ憎みたいと思いながら、しかしどうしてもそうすることができない、それどころか黙っで姿を消していった母の背中を思い浮かべ、そのどこのだれともわからない女の、どうしようもないあわれさにむしろより深い愛を感じてしまう・・・。


私には、そんな犀星が思い浮かんできて仕方がないのです。

犀星の自己形成のあと

犀星は、先の『杏っ子』の中でこうも書いています。


「小説家平山平四郎がいくらじたばた腕いても、その母をもう見ることが出来ないのである。


ただ、このような物語を書いているあいだだけ、お会いすることが出来ていた。


弥左衛門の言いぐさではないが、遂に砥な者にはならなかったけれど、物語をつづるということで、生ける母親に会うことのできるのは、これは有難いことと言わざるをえない、有難いことのなかの特に光った有難さなのである」。


犀星が、いよいよ文学でと意を決し上京したのは明治43年、21の時でした。


それから10年近く、金沢へ帰ってくれば、金にもならん詩なんか書きおって、あんな男はゴロツキとおんなじゃないけ、そういう意味で「詩ゴロ」とさげすまれもしました。


しかしそれでも詩を書きつづけ、『愛の詩集』『好情小曲集』(大正7年/29歳)、この2冊によって文壇にデビュー。


翌年にはさらに『幼年時代』『性に眼覚める頃』を書いて、小説家としても世間の注目を浴びるに至ったのです。


この2つの小説は、さらに「或る少女の死まで」(大正8年)を加え、しばしば初期三部作とも呼ばれて、犀星の自己形成のあとを、その幼年期から青年期に至るまで、克明にたどることのできるものです。


中でも『性に眼覚める頃』は最も人気があり、再三映画やテレビにもなっています。

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